かいつまんで言えば
子供の成長は遺伝が強く影響しているので与えられた条件の基でうまくやっていくしかない
ということがこの本には書かれてあります。
なぜ泣き止まないのか、どうして言うことを聞いてくれないのか、感情的になった子どもにどう対応すればいいのか?
友達と遊べない、いじめられた・いじめてしまった、集団行動が苦手といった子どもの人間関係に親が介入していいのか?
内気すぎる、活発すぎる、こだわりが強いなど、子どもの個性的な性格をどう受け入れ、伸ばしていけばいいのか?
子育てをしていて、子どもの「癇窶や感情のコントロール」「友人関係や集団行動」「性格的な特性への向き合い方」に悩まない親はほとんどいないと思います。
このような悩みを抱えた親が、子どもの「気質」を理解しそれに合わせた子育てをするためにこの本は間違いなく役に立ちます。
タイトル | THE CHILD CODE 「遺伝が9割」そして、親にできること | ||
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著者 | ダニエル・ディック(著) / 竹内薫(監訳) | ||
出版社 | 三笠書房 | 発売日 | 2024 /2 / 10 |
目次
対象
この本を一言で説明すると「遺伝的傾向を見極め自分の子に応じた子育ての仕方を考える子育て実践書」です。
育児・子育てのhow to 本を読んだことがある親御さんが大半だと思いますが、how to 本の多くは「このときはこうすればいいという」提案はされていますが、誰にも共通する正しい子育てはなく気質を知り個に合わせて育てることの大切さに触れたものはそこまで多くないはずです。
この本を読めば個々の気質に応じて親がどのように対処したほうがいいのか確実にヒントを得られます。
2歳~6歳くらいまでの子を育てている親をメインターゲットにしていると思われますが
子育てで悩みや不安を抱えているのであれば、子供の年齢を問わず何かしら参考にできる部分があるはずなので、中学生くらいまでの子どもがいる親も十分対象になると思います。
※ 日本のタイトル「遺伝は9割」というのはおそらく出版社が売るために勝手につけたものだと思います。遺伝は大きく影響するし、遺伝が環境にも影響を与えるが、環境によって変わる部分も多くあるので、「少し挑戦してダメだ」とか「困難な状況が一向に変わらない」と諦めるのは間違いです。あくまでも「遺伝は大きく影響するがすべてを決めるわけではない」ということが重要です。
遺伝が強く影響する
古い実験に「統合失調症でない母親の子の対照実験では0%であったが、統合失調症に罹患している母50人の子どもを養子に預けたら、産みの親が育てたわけでもないのに17%が発症した」というものがあるみたいです。
このことから、統合失調症を発症するかどうかは、親のしつけではなく、遺伝が大きく影響することが分かると思います。
当然、統合失調症だけでなくほぼすべてが遺伝的影響を受けています。
だから、親の育て方は子どもの性格にそこまで影響しません。
たとえば「支配的な親が子を支配しているとその子も支配的になる」ではなく、「子が支配的な遺伝を受け継いだだけ」かもしれないという分けです。
著者は遺伝の影響を受けるのは容姿・知性・心の健康・行動やふるまいだけではなく、人生で経験することすべてに影響すると主張し、だからこそ、「子どもを変えようとする」のではなく子供を知り「子育て戦略を変える」ことが重要にななると言っています。
そのうえで大切なのは
- 外向性(extraversion)
- 情動性(emotionality)
- 自制心(effortful control)
この3つの視点だそうです。
遺伝的な素質は変えようがないので素質を認識し良い方向に導く(潜在能力を引き出す)ためこれらを知るこがすべての基盤になるというわけです。
親子の気質が異なるのにそれに気づかず
親が良いと思っていることをさせようとしても、子どもがそれを嫌がっていればフラストレーションを抱え好ましくない言動に繋がるはずです。
少し考えれば、当たり前のことかもしれませんが、子育てとなると完璧を求めてしまうので、こういうことに気づけなくなるのも仕方がないかもしれません。
この本を読むことで「正しい教育をすれば親が思うような子に育つ」というのは幻想でしかなく、遺伝が強く影響している事実を認識し、そのうえで親が何をすべきかを考えるきっかけになると思います。
IQは遺伝するのか?
もしかすると、「遺伝が9割」とタイトルにもあるので
どうすれば勉強ができるようになるだろうか?
ということを期待して本を手にした方がいるかもしれませんが、
この本は小さい子供の子育てに焦点を当てているのでIQについてはほとんど触れられていませんし、勉強法については一切触れられていません。
しかし、それだからこそ勉強ハウツー本では絶対に触れることがないことにも触れています。
チャプター2に「地頭のよさ」は遺伝する?という項目があるんです。
結論は、遺伝が大きく影響するが環境要因もあるということなのですが
「地頭のよさ」とあるように、頭のよさには個人差があることを前提に書かれているのです。
分かりやすく具体的に書くと
- 東大を卒業した両親の子はかなりの確率で地頭がよくなる
- 親の一人が東大を卒業しているが、もう一人が勉強が苦手だったという場合、子は勉強が苦手になる
- 勉強をしなかったことが原因で両親は専門学校卒だが実は地頭がいという場合、子は環境によっては勉強が得意になる
といったことが起こり得ると書かれているんです(あくまでも可能性として起こりうる)。
そんなことを書いてしまえば、何とかしてできるようにさせたいと思っている親が購入しなくなるので、一般的な勉強本にはこういうことには絶対に触れません。
しかし、この本は、直接的に書かれているわけではありませんが
努力をすればできないことができるようになることはあるが、遺伝によっては努力でもどうにもならないということもある
ということがしっかりと書かれているんです。
できないことは努力をしてもできないのだから、その努力は無駄になる可能性が高いです。
そうであるなら、できることに努力をさせる方が子供のためになるはずです。
子どもの可能性を最大限引き出すために、遺伝的に生まれ持った傾向を親が認識することはとても大切だと思います。
現在の日本は学校教育の性ではありますが、「学校の勉強ができなければ社会で生きていけない」という思い込みを強く持っている人が多くいると思いますが、学校の勉強が苦手なら、学校で学ぶこと以外のところに力を入れればいいだけだと思うんです。
確かに、多くの人が受験のために内申点が必要ということもあり、定期テストの結果に必要以上にこだわったり、遊びを一切許さず勉強だけを指せようとしている人もいると思います。
そういう人は、教育心理・発達心理・行動遺伝学といったものが書かれた本を読むことを勧めます。
感情のコントロール
P255に、行動や感情を努力して制御する能力は25歳くらいになってはじめて完成すると書かれています。
脳の発達は段階があり、その中でも感情をコントロールする力の発達は他の能力と比べ少し時間がかかるみたいです。
年を重ねるにつれ、少しずつ感情のコントロールができるようになった感じる大人が多くいると思いますが、それは脳の発達が関係しているようです。
感情のコントロールが苦手な子に悩みを抱えている親は
「感情のコントロールは発達を待たなければならないのか?」
ということが気になると思います。
P264に親が適切に「介入」すればある程度は可能だと書かれてあるので、気になる方は参考にしてください。
ただし、「自分は何をしても許されている自由でいい」という感情に支配されたまま、一定の年齢になってから介入をするとなると、おそらくコントロールするのは相当難しいはずです。
「介入」をするなら、小学校低学年くらいまでには親としてこれだけは守ってもらいたいルールを決め、「そのルールの下でなら何をしても大丈夫」としてあげた方がいいかもしれません。
公共の場で騒いで煩い子に注意しようものなら「子どもの個性に任せて自由にさせている。あんたには関係ないだろ」と今の時代はなるかもしれませんが
子どもにまったく介入しないで自分の意思で好きなようなことをさせるのは単なる「放任」でしかありません。
「自分勝手のわがまま」と「自由」をはき違えさせないことは大切です。
あとはP261に
自分の感情、行動、衝動を制御するという「課題」は、基本的に次の二つに集約されると考えられます。
やりたい(でもやるべきでない)ことを止めるのは難しい。
やりたくない(でもやるべき)ことを始めるのは難しい。
とあるのですが、これらをどうにかするために、親ができる「介入」の方法の例を本書ではいくつか挙げているので参考になるはずです。
注目した内容
個人的に注目した内容を列挙していきます。
おしおきに効果はあるのか?
結論は「逆効果になる」みたいです。
P194に
親が怒鳴れば、「腹が立った時には怒鳴ればいいのだ」と、親が殴れば、「殴っていいのだ」と子供は学びます。親が罰を与えることで、子どもは、自分の思い通りにしたいとき、自分の意思を誰かに押しつけたいとき、誰かの行動が気に入らないときは、「怒鳴って、殴って、罰すればいい」ということを学ぶのです。
このようにあります。
おしおきがどのようにこどもに影響するかも遺伝が大きく関わっています。
なので、親が暴力によって支配するからといって、その子も同じようになるかどうかは分かりません。
しかし、遺伝で衝動的な部分を強く受け継いでいたら、かなりの確率で親と同じようなことを学校でするようになるんだな、と思える経験を私もしたことがあります。
私が塾を始めたばかりの20年くらい前のことなので、書いても問題ないと思うので書きますが
悪いことをしたら親から暴力を振るわれるという子が生徒の中にいて、私も若かったのでその子の親に電話をしたのですが、「あなたに家庭の問題に入られる筋合いはない」とすぐに切られてしまったことがあります。
その子は、友達同士4人で塾に入り、4人とも定期テストで400点を取れたのですが、2学期の中間テストで4人中で3番目になったことで「成績が伸びない」といい、友達を全員連れて塾を辞めてしまいました。
後から聞くと学校で相当のヤンチャをしていたらしく、周囲を支配するいじめの首謀者だったらしく周りから怖がられていたみたいです(4人のうち1人はその子のせいでいじめの対象になり一時不登校になっていたみたいです)。
親の最強のツールは「ごほうび」
P197に
悪い行いに対するおしおきに代わるのは、よい行いを促すような取り組みです。
とあります。
悪い行いを止めさせるよりも、よい行いを積み上げさせる方が簡単なのだそうです。
「ごほうび」はモノをあげるのも「ごほうび」にはなりますが、それよりも「褒める」ことが「ごほうび」になるみたいです。
なお「ごほうび」のあげ方にも子の気質を知ったうえで与えたほうがいいらしいです。
本書では、子どもが変わる「上手な褒め方」の4つの秘訣を提示し、子どもがワクワクするごほうびシステムを提案してくれています。
これに関しては他の育児書でも読める内容かもしれませんが、十分参考になるはずです。
四つの「子育てスタイル」
子育てスタイルは「優しいか・冷たいか」と「甘いか・厳しいか」の二軸で分類しそれをさらに
- 権威
- 迎合
- 独裁
- 放任
の4つのマトリクスに分類させ見ていくことがあるみたいです。
これに関しては、多少使われる語彙が異なるかもしれませんが、他の育児書を読んで知っている方も多くいると思います。
「そんなの全く聞いたことない」
という方は
子育てにおいてどのタイプがいいのか、自分がどのタイプに近いのかを考えることで、子どもに対する接し方を意識的に変えようという気になるかもしれないので、参考にしてみてください。
夫婦によって方針が異なる
夫婦によってどの行動を問題視するのかが異なり、子育て方針を巡って考えが合わないことがあるはずです。
そのときにどのように対処すれば「子育てについての話し合い」を生産的に行えるかのコツが書かれています。
これも多くの育児書に書かれているので、既に夫婦間でルールを決めている場合あまり新しい情報はないかもしれません。
子どもたちによく見られる症状
困った行動や症状が見られたとしても、それは環境に適応してうまくやっていくことが難しいだけで、「おかしい」わけではありません。
大人になると子供のときよりも生きやすく感じる人がいると思います(その逆もしかり)。
これは、年齢を重ねることで脳が発達したことも考えられますが、自分で自分に適した環境を選べているからなのかもしれません。
子どものときは「学校」という社会に無理やり入れさせられるので、環境を自分で選べないので、大人よりも「不安障害」「適応障害」「うつ」などになる割合が高くなるんだと思います。
詳細は本書を読めばわかりますし、他の教育書や発達障害関連の書籍にも書かれてあるので、最後に一つだけ。
幼稚園・保育園・小中学校の先生・塾講師は様々な子を見ているので、一般的な子が取らない言動をしていれば、「この状況はよくないな」ということがすぐに分かるのですが、親は比較できる対象がほとんどいないので、支援を受けるべきなのかどうか判断が難しいと思います。
躊躇する親が多くいることを見越してなのか、この著者は「迷っているなら今すぐ支援を受けてください」と書いています。
日本はアメリカと異なり、支援を受けるのにも苦労をするかもしれませんが、日常生活を送るのにも苦労しているのなら、まずは通っている学校の先生でも構わないので、できる限り専門家に相談したほうがいいと私は思います。
これは、人間関係だけでなく、勉強面においてもです。
私が塾講師をしているということもありますが、認知的に弱い部分があり努力によっても勉強ができないのに、ひたすら勉強をさせられている子はいまだに多くいるような気がします。
何ができるできないかは相当な偏りがあるので、「英語はできるが数学はできない」「計算はできないが数学的思考が高い」といったこともあるので、一般的な親にはそれを判断することはかなり難しいはずです。
認知検査を受ければ、努力では難しい部分、どうにかできる部分がある程度(ある程度です)見えてくるので、できない部分ではなくできる部分に力を入れることもできるようになるはずです。
その他気になった内容
親の役目は長所を最大限引き伸ばし、短所をコントロールできるようにする。
自制心を養うために親ができること。
子どもの主体性が伸びる親のかかわり方。
親が好きなことは子どもも好きに決まっていると思い込んでしまう(そうとは限らない)。
親は子供に自分自身に対するよりも高めの水準を子どもに課してしまう。
何が正常で何が異常なのか判断するのは難しい。
全体的に読み応えのある本ですが、平易な内容なので3時間もあれば一通り内容を捉えられると思います。
一通り読み終わった後は特に重要だと思える項目を繰り返し読んで実践して見て下さい。
タイトル | THE CHILD CODE 「遺伝が9割」そして、親にできること | ||
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著者 | ダニエル・ディック(著) / 竹内薫(監訳) | ||
出版社 | 三笠書房 | 発売日 | 2024 /2 / 10 |