入試直前期になると、「今年は何が出題されるか予想してほしい」という不安を抱えた受験生や保護者が増えてきます。
合格したいという切実な願いから、何かにすがりたくなる気持ちはよく分かります。
しかし、根拠の薄い「出題予想」に振り回されることは、時に合格を遠ざけるリスクを孕んでいます。
今回は、塾講師の視点から、出題予想の正体と、合格を勝ち取るために何に時間を割くべきかについて解説します。
目次
個人的な「勘」による予想が危険な理由
「今年はこれが必ず出る」という講師の言葉を信じて、特定の範囲だけを勉強するのはおすすめしません。
どれほど経験豊富な講師であっても、出題者ではない限り、的中を保証することは不可能だからです。
実際、私の高校時代の友達に、予備校の人気講師による「的中予想」を信じ、特定の範囲に絞って猛勉強していました。
しかし蓋を開けてみれば、予想は大きく外れてしまったのです。
どれほど経験豊富な講師の予想でも、外れる時は外れる——これが試験の現実です。
また、10個の単元を挙げて1つ当たっただけで「的中」と喧伝するような、数字のマジックも業界には存在します。
的中はあくまで結果論に過ぎません。
「山を張る」という行為は、外れたときのリスクを全て受験生自身が負うことになるということを忘れないでください。
出題予想が持つ「精神面でのメリット」
それでもなお、受験業界から予想がなくならないのは、受験生にとって「迷いを消す」という心理的な効能があるからです。
直前期の受験生は、強いプレッシャーから「あれもこれもやらなければ」とパニックに陥り、全ての学習が中途半端になりがちです。
そうした「空白の時間」が生まれるくらいなら、たとえ根拠が薄くても「これをやれば大丈夫だ」という指針を持つことで、集中力を取り戻すことができます。
もし不安で手が止まっているのなら、信頼できる先生のアドバイスを「迷いを断ち切り、勉強の優先順位をつけるためのヒント」として活用するのは良いです。
ただし、それはあくまで基礎を網羅した上での「優先順位」として捉える程度にとどめておきましょう。
大手塾の「組織的な分析」は信頼に値する
一方で、講師個人の「勘」ではなく、塾が組織として行っている「傾向分析」は全く別物です。
特に公立高校入試は、地域ごとに問題形式や配点、頻出単元のパターンが明確に存在します。
大手塾が作成する冬期講習や直前対策のテキストは、過去10年、20年といった膨大なデータを統計的に処理して作られた、いわば「データに基づく予測の結晶」です。
ですから、塾に通っている子は、あちこちで「個別の予想」を探し回る必要はありません。
与えられたテキストを完璧に復習すること自体が、最も精度の高い入試対策になります。
出題予想ではなく「過去問」を解く
直前期に不安にかられて、新しい「入試直前対策」といった市販の本を何冊も買い込む人がいますが、これはあまり効率的ではありません。
市販の教材は汎用性が高い反面、自分の受験する地域の細かい傾向まではカバーしきれていないことが多いからです。
最後に頼るべきは、以下の2つに絞られます。
- 直近3〜5年分の過去問(他人に解説できるレベルまで完璧にする)
- これまで使い込んできた参考書(苦手な箇所の穴埋め)
過去問を徹底的に解き込むことで、「どのような形式で、どの程度の深さが問われるか」という傾向を肌感覚で掴めます。
これこそが、自分自身で導き出す、最も確実な「出題予想」となります。
残り2週間の過ごし方
入試の合否は、試験当日の1分1秒まで決まりません。
効果的なスケジュールの目安として、過去問を中心とした実戦演習は、入試の2週間前までに一区切りつけましょう。
最後の2週間は、新しい応用問題に挑戦するよりも、「暗記」と「基礎の最終確認」に全振りすることを強くおすすめします。
英単語、漢字、理科・社会の用語、数学の基本公式。
これらは最後まで伸びる余地があり、かつ本番に出題されれば確実に点数に直結する部分です。
不安に飲み込まれそうになったときこそ、「基礎の反復」に戻ってください。
不安に負けず、自分が積み上げてきたものを信じて最後まで頑張ってください。
